経営計画を立てる、という作業を、
私は最初、数字の話だと思っていた。
売上目標、患者数、コスト管理。
どう増やして、どう抑えるか。
数字を並べれば、経営計画になると思っていた。
しかし、数字の前に問わなければならないことがあった。
「この組織は、何のために存在するのか」
それが定まっていない計画は、
どこへ向かっているのかわからない地図だ。
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ミッションという言葉がある。
企業理念、経営理念、存在意義。
様々な言葉で語られるが、要するに「なぜここにいるのか」だ。
この言葉を、私はかつて、
「大企業が壁に掲げるもの」だと思っていた。
自分のクリニック、自分の人生には、
そこまで大げさなものは要らない、と。
しかしそれは、誤りだった。
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ミッションがないと、何が起きるか。
判断に軸がなくなる。
新しい依頼が来たとき、受けるべきかどうかわからない。
時間をどこに使うべきか、基準がない。
何かをやめるべきタイミングも、見えない。
「良さそうだから」「頼まれたから」「なんとなく」
こうした理由で判断を積み重ねていくと、
5年後に、全く意図していなかった場所に立っている。
経営で言えば、戦略なき事業の拡散だ。
人生で言えば、方向のない忙しさだ。
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では、ミッションはどこから来るのか。
与えられるものではない、と思っている。
「社会の役に立ちたい」という言葉は、
きれいだが、軸にはならない。
「医療を良くしたい」も、
あまりにも広すぎて、判断の基準にならない。
ミッションは、もっと具体的で、
もっと個人的なものだ。
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私の場合、それは長い時間をかけて、少しずつ言葉になっていった。
「手術の常識を打ち破り、日帰り手術で感動を届けること」
これが、私のミッションだ。
感動、という言葉を使うことに、最初は抵抗があった。
医療は、感情ではなく、技術と安全で語るものだと思っていたからだ。
しかし考え続けるうちに、気づいた。
入院せず、翌日から日常に戻れる。
傷は小さく、痛みは最小限に抑えられる。
院長が全ての手術を執刀し、麻酔科専門医が安全を支える。
この体験を終えた患者が、「こんな手術があったのか」と思う瞬間。
それは確かに、感動と呼べるものだった。
「理想の日帰り手術を追求し続ける」というヴィジョンも、
この問いから生まれた。
追求し続ける、という言葉が重要だ。
完成はない。常に更新される目標として、前に置き続ける。
ミッションとヴィジョンが定まったとき、
初めて「なんのために働いているのか」が、腑に落ちた。
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ミッションが定まると、次に問うべきことが見えてくる。
「誰に、何を、なぜ自分から提供するのか」だ。
これを、経営では「バリュープロポジション」という。
日帰り手術を必要としている患者に、
入院不要・小さな傷・早期回復という体験を、
鼠径ヘルニア専門の外科医・経営者として届ける。
この問いに答えを持つことで、
「自分は誰のために、何をする人間なのか」が明確になった。
ミッションが「なぜ」を答えるものだとすれば、
バリュープロポジションは「誰に、何を」を答えるものだ。
この二つが揃って初めて、
戦略の方向が定まる。
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ミッションが定まると、戦略設計が変わる。
戦略とは、ミッションと現実の間を埋める道筋だ。
「どこに時間を使うか」
「何を学ぶか」
「誰と組むか」
「何をやめるか」
これらすべての判断が、ミッションを基準にすると、
格段に明快になる。
「これはミッションに近づくか、遠ざかるか」
その問いだけで、多くの迷いが消える。
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戦略設計の中で、私が特に意識するようになったことがある。
「知の探索」と「知の深化」のバランスだ。
深化とは、すでに持っているものをさらに磨くことだ。
腹腔鏡の技術を極める。
ヘルニア手術の精度を上げる。
経営の判断力を鍛える。
これは重要だ。深みがなければ、信頼は生まれない。
探索とは、まだ持っていないものに踏み出すことだ。
医療以外の世界を知る。
異なる職種の人間と話す。
自分の専門とは無関係に見える分野を学ぶ。
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深化だけに偏ると、何が起きるか。
専門性は高まる。
しかし、世界が狭くなる。
外部環境が変化したとき、
その変化に気づけない。
あるいは、気づいても対応できない。
探索だけに偏ると、何が起きるか。
視野は広がる。
しかし、どこにも根が張れない。
深みのない知識は、判断の裏付けにならない。
どちらか一方ではなく、両方が要る。
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私は医師として、長く「深化」に軸を置いてきた。
技術を磨くこと、症例を積むこと、
学会で知識をアップデートすること。
それは間違いではなかった。
しかし経営者になって、
強制的に「探索」を迫られた。
財務、人事、マーケティング、法務。
医学とは全く異なる言語の世界に踏み込んだ。
最初は、苦痛だった。
しかし徐々に、
外科医としての視点が、経営の判断に活きることに気づいた。
探索した知識が、深化した専門性と組み合わさって、
自分にしかできない判断の形ができてきた。
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ミッションは、この探索と深化の両方に、
方向を与えてくれる。
「何のために深めるのか」
「何のために探索するのか」
その問いに、ミッションが答えてくれる。
目的のない深化は、自己満足になる。
目的のない探索は、迷走になる。
ミッションという軸があって初めて、
探索と深化は、戦略の一部になる。
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「なんのために生きるか」
この問いを避け続けていた時期が、私にはある。
大げさに思えた。
答えが出ない気がした。
答えを出すことで、自分を縛りたくなかった。
しかし今は、違う。
この問いに向き合うことが、
人生の戦略設計の、最初の一手だと思っている。
答えは、完成しなくていい。
更新され続けるものでいい。
ただ、「今の自分はこう答える」という言葉を、
持っていることが、大切だ。
その言葉が、次の判断の軸になる。
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このブログ「自己経営」では、
医療法人の経営者として、外科医として、
自分の人生を主体的に設計するための視点を綴ります。
自己経営 〜法人経営で学んだ、主体的に今を生きるための自己分析〜 医療法人の経営を始めて、初めて気づいたことがある。 「自分のことをわかっていなかった」ということだ。外科医として技術を磨き、患者と向き合い、組織を動かしてきた。 しかしそのすべては、「外の世界」への働きかけだった。 ...
キーワード
・ミッション:「この組織は、なぜ存在するのか」「自分は何のために働くのか」を言語化したもの。きれいな言葉ではなく、具体的で個人的な問いから生まれる。判断に迷ったとき「これはミッションに近づくか、遠ざかるか」という基準になる。
・ヴィジョン:ミッションを前提に、自分や組織が目指す状態を描いたもの。「完成する目標」ではなく、「常に更新され続ける、前に置き続ける目標」として機能する。
・バリュープロポジション:「誰に、何を、なぜ自分から提供するのか」を明確にしたもの。ミッションが「なぜ存在するか」を答えるのに対し、バリュープロポジションは「誰のために、何を届けるか」を答える。この二つが揃って初めて、戦略の方向が定まる。
・戦略設計:ミッションと現実の間を埋める道筋を描くこと。何に時間を使い、何を学び、何をやめるかの判断すべてに、ミッションという軸を通すことで、判断が明快になる。
・知の深化:すでに持っているスキルや専門性をさらに磨くこと。深みがなければ信頼は生まれないが、深化だけに偏ると世界が狭くなり、外部環境の変化に対応できなくなるリスクがある。
・知の探索:まだ持っていない領域に踏み出すこと。視野を広げるが、目的なく偏ると迷走になる。ミッションという軸があって初めて、探索は戦略の一部になる。
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