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外科医のノート

起業家とは?外科医が開業し社会を変えられるか?

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起業家とはどんな仕事ですか?


院長松下

起業家とは、顧客の変化を設計し、その積み重ねで社会を変えていく人だと私は考えています。外科医として起業を選んだ経験から、起業家の本質を考えます。

起業家とは?価値、顧客、そして社会を変える力

私は外科医であり、医療法人の理事長でもあります。

手術台に立つとき、私は一人の職人です。
しかし経営会議に向かうとき、私は経営者の顔を持たなければなりません。
その二つの間で、長い間揺れ続けてきました。

そのなかで、そもそも起業家とは、何者なのかを考えるようになりました。
価値を創り、顧客を生み出し、社会を変えていく
その力の本質は、どこにあるのかを。

起業家は、価値を「創る」必要はない

多くの人が起業家という言葉に、「ゼロから革命的な何かを生み出す人」というイメージを重ねます。

しかしそれは誤解だと思います。

経済学者シュンペーターは「イノベーションとは新結合である」と言いました。
つまり既存の要素を新しく組み合わせること、それがイノベーションの正体です。
iPhoneは新たな発明品ではなく、電話、音楽プレイヤー、インターネット通信を組み合わせたものでした。

起業家に必要なのは、ゼロから価値を生む創造力ではありません。
既存のものを組み合わせ、顧客に届く形に変換する力です。

起業家の本質は「不確実性を引き受ける覚悟」にある

起業家を語るとき、もう一つ欠かせない要素があります。
それは、不確実性を引き受ける覚悟です。

自ら何かを創造するということは、その結果に対する責任とリスクをすべて自分で背負うということです。
うまくいくかどうか、誰も保証してくれません。
市場が受け入れてくれるかどうか、資金が続くかどうか、仲間が集まるかどうか。
すべてが不確かなまま、前に進む決断を迫られます。

もちろん、失敗してもやり直せますし、経験は次に活かせます。
しかし起業当初は、事業と個人がほぼ一体になります。
会社の信用は自分の信用であり、事業の借金は自分の借金です。
法人を設立しても、個人保証などを通じて、精神的・経済的には事業と自分の間に明確な境界線を引けないのが実態です。

その近さが、重荷になることもあります。
しかしその近さこそが、起業家を突き動かす熱量の源でもあります。
自分のすべてを懸けているからこそ、諦めずに考え続けられる
その覚悟が、雇用者と起業家を分かつ最も根本的な違いだと思います。

職業選択としての起業を考える

起業は職業選択のひとつだと、私は思っています。

会社員として組織に属する道と、自ら場所を作る道。
どちらかが優れているのではなく、何を大切にして生きるかによって、選ぶべき道が違います

会社員は、給与という形で安定を得る代わりに、事業のリスクを組織に委ねます。
起業家は、その不確実性をすべて自分で引き受ける代わりに、設計の自由を手にします。
どちらを選ぶかは、向き不向きではなく、自分が何に価値を置くかの問題です。

では、起業に向いているのはどんな人でしょうか。

「アイデアがある人」でも「行動力がある人」でもなく、私は「届けたい変化を持っている人」だと思います。

何を作るかより、誰の何を変えたいか。
その問いに自分なりの答えを持っている人は、困難な局面でも立ち戻る場所があります。
逆に、その答えがないまま起業しても、最初の壁で方向を見失いやすくなります。

私自身が起業を選んだのも、「経営者になりたい」からではありませんでした。
最高の手術を患者さんに届けるために、自分で環境を作るしかなかったからです。
動機は経営ではなく、医療の質でした。

職業を選ぶとき、「安定か挑戦か」という問い方をよく聞きます。
しかし本当の問いは、「自分が届けたい変化は何か、そのためにどんな場所に立つべきか」ではないでしょうか。

起業はその答えのひとつに過ぎません。
しかしその答えを持っている人にとっては、これほど自分らしい道はないとも思います。

起業家の仕事の核心は「顧客の変化」にある

では、「届けたい変化」とは具体的に何を指すのでしょうか。
サービスや商品を提供することでしょうか。

経営学者レビットはこう言いました。
「顧客はドリルを買いたいのではなく、穴を開けたいのだ」と。

商品は手段に過ぎません。
顧客が求めているのは、商品がもたらす状態の変化です

私のクリニックで言えば、患者さんが求めているのは「腹腔鏡手術」ではありません。
「鼠径ヘルニアの症状と不安から解放され、翌日には日常に戻れる状態」です。
その変化を届けられるかどうか。
それが起業家の本質的な問いになります。

価値は届かなければ存在しないのと同じ

価値があっても、顧客に届かなければ何も起きません。
この「変換」に失敗している事業は、世の中にたくさんあります。

その壁は三つあります。

  • 認知の壁:顧客が価値の存在を知らない。知らないものは求められません。
  • 理解の壁:知っていても、自分ごとにならない。専門家の言葉と、顧客が受け取れる言葉の間には深い溝があります。
  • 行動の壁:理解しても、動けない。コスト・不安・現状維持バイアスが立ちはだかります。

起業家の仕事は、価値を創ることだけでなく、この三つの壁を突破することです。
どれほど優れた商品も、届かなければ存在しないのと同じです。

顧客の変化が積み重なって、社会が変わる

一人の顧客の状態が変わります。
また一人が変わります。
それが積み重なったとき、社会の常識そのものが書き換わります。

「ヘルニア手術には入院が必要だ」という社会認識が、少しずつ変わっていきます。
日帰りで受けられる、安全で質の高い手術があると知られていきます。
その変化の積み重ねが、医療の在り方を変えていきます。

起業家とは、顧客一人の変化を設計し、それを積み重ねることで社会を変える人です。
その変化を意識的に設計できるかどうかが、起業家の仕事の要だと思います。

利益は目的ではなく、結果である

「事業の目的は利益の追求だ」という言葉に、私は長い間抵抗を感じてきました。

利益のために手術件数を増やすこと、利益のために患者さんとの時間を削ること。
そういった選択は、医師としての私の理念から遠ざかるものです。

ドラッカーはこう言っています。
「利益は事業の目的ではなく、事業を継続するための条件である」と。

利益とは、価値を届けた結果として生まれるものだと、私は考えています。
最高の手術を届けることに集中すると、その先に自ずと利益はついてくる。
利益を追いかけるのではなく、患者さんへの価値提供を追いかける。
その順序を守ることが、事業の本質を守ることだと思っています。

事業の拡大だけが成功ではない

事業を拡大する他のクリニックが気になっていた時期がありました。
しかし自分の信念は、そこにはありませんでした。

経営者には二種類います。
スケールを追う経営者と、深さを極める経営者です。
前者は仕組みで規模を作り、後者は質で信頼を作ります。
優劣の問題ではなく、目的によって選ぶべき道が違います。

私は後者です。
事業を大きくすることよりも、一人ひとりの患者さんに最高の手術を届けたい。
それは「事業を拡大できない経営者の言い訳」ではなく、「自分の意志で選んだ道」だと今では思っています。

起業家になるために必要なこと

最後に、起業家を目指す方にとって大切だと思うことを伝えます。

動機を問うこと

何のために事業をするのか
利益は結果であり、目的ではありません。
本質的な動機が明確であれば、困難なときに立ち戻る場所があります。

価値とその届け方をセットで設計すること

良いものを作るだけでは不十分です。
三つの壁を越えて顧客に届くまでの設計が起業家の仕事です。

自分が変えたい社会の状態を思い描くこと

顧客一人の変化の先に、社会の変化があります
その絵を持っている人だけが、長期にわたって動き続けられます。

まとめ

私はいまだに、職人と経営者の間で揺れています。

しかしその葛藤は、弱さではないと思うようになりました。
最高の手術を届けたいという動機が、経営者としての判断を常に正しい方向に引き戻してくれるからです。

外科医が社会を変えられるか。
その答えは、一人の患者さんへの変化を積み重ねることの先にあると、今は感じています。

起業家とは、特別な才能を持つ人間ではありません。
不確実性を引き受け、顧客に届けたい変化を持ち、そのための場所と仕組みを自ら作る覚悟を持った人のことだと、私は思います。

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大宮駅から徒歩3分にある埼玉外科クリニックでは、腹腔鏡による鼠径ヘルニアの日帰り手術を行っています。
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院長 松下公治

この記事は埼玉外科クリニック院長松下が執筆。腹腔鏡による鼠径ヘルニアの日帰り手術が専門。外科専門医、消化器外科専門医・指導医、内視鏡外科技術認定医(ヘルニア)。

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