医療の現場で、「納得」という言葉はよく使われる。
納得して治療を選んだ。
十分に説明し、納得してもらった。
だが、その中身を丁寧に言葉にする機会は、
実はあまり多くない。
患者さんが納得している状態とは、
一体どんな状態なのだろうか。
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多くの場合、「納得」は説明の量や時間と結びつけて語られる。
十分に説明した。
質問にも答えた。
同意書にも署名してもらった。
それは確かに大切なプロセスだ。
だが、それだけで本当に患者さんが納得しているとは限らない。
説明を聞いたが、どこが重要なのか分からない。
選択肢は示されたが、何を基準に選べばいいのか分からない。
そうした状態でも、患者さんは「はい」と言う。
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外科医として患者さんと向き合う中で、
私は「納得」にはいくつかの層があると感じるようになった。
一つ目は、情報としての理解。
手術の内容、合併症、経過。
これは比較的、言葉で伝えやすい。
二つ目は、判断としての理解。
なぜこの治療なのか。
なぜ今なのか。
なぜ他の選択肢ではないのか。
そして三つ目が、
自分の生活と結びついた理解だ。
仕事はどうなるのか。
家族への影響は。
術後、どんな日常が待っているのか。
この三つが重なったとき、
患者さんの表情は明らかに変わる。
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日帰り手術について説明する際、
私は必ず、
「日帰りで帰れることのメリット」と
「不安になりやすい点」を
同時に話すようにしている。
帰宅できて生活への影響が少ないこと。
一方で、
もし何かあったときの対応。
その上で、
「この形が、その人に合っているか」を一緒に考える。
ここで重要なのは、正解を提示しないことだ。
医師が「こちらがベストです」と言えば、患者さんはそれを選ぶ。
だがそれは、納得ではなく、委ねている状態に近い。
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納得している患者さんは、術後の様子も違う。
不安を感じたときに、
「これは想定内かもしれない」と考えられる。
必要なときに、ためらわずに連絡できる。
一方で、納得しきれないまま治療を受けた場合、
小さな違和感が大きな不安に膨らみやすい。
医療の質は、手術や結果だけで決まるわけではない。
納得の質もまた、経過に影響していると感じる。
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医療者にとって、
「納得してもらう」という行為は、時に負担に感じられる。
説明に時間がかかる。
迷われる。
即答が得られない。
だが、その時間は、
後になって振り返ると、
多くの場合、
トラブルや不満を減らしてくれる。
納得は、
効率と対立するものではなく、
むしろ、
医療を持続させるための大切な時間
なのかもしれない。
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納得できる医療とは、
その人自身が、選んだと感じられる医療だと思っている。
たとえ結果が思い通りでなくても、
「自分で考えて決めた」
という感覚は、医療への信頼を大きく損なわない。
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このブログで書いてきた
入院、日帰り、標準化、安全。
それらはすべて、
最終的には
「患者さんが納得できるかどうか」
に収束していく。
医療のかたちが変わっていく中で、
私が一番大切にしたいのは、
この一点だ。
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このブログ「外科医と経営者の視点」では、
外科医、そして経営者としての経験から感じたこと、迷ったこと、
現場で抱いてきた違和感を、
できるだけそのままの言葉で綴っていきます。















