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外科医と経営者の視点

理想だけでは、医療は続かない

医療の話をするとき、私たちはしばしば「理想」を語る。

患者中心の医療。
安全で質の高い医療。
納得できる医療。

どれも、否定しようのない正しさを持っている。
むしろ、そうでなければ医療ではない。

だが、現場で医療に向き合い続けていると、
一つの問いが浮かび上がってくる。

医療は、理想だけで成立するのだろうか。

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病院勤務時代、
私はあまりこの問いを意識せずに働いていた。

理想は、どこか前提として共有されているものだった。

安全であるべきだ。
患者のためであるべきだ。
医師として誠実であるべきだ。

それらは疑う余地のない価値であり、
日々の忙しさの中で、改めて立ち止まって考えるものではなかった。

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だが、開業し、医療を「続ける側」に回ったとき、
理想の重みは、まったく違う形で現れた。

理想は、掲げるだけでは守れない。

時間が必要だ。
人手が必要だ。
仕組みが必要だ。

そして、それらを維持するための現実的な判断が、必ず求められる。

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医療が理想だけで成立しない理由は、単純だ。

医療は、人と人の営みであり、
組織と制度の上に成り立つ仕事だからだ。

どれほど高尚な理想も、
それを支える構造がなければ、現場では消耗していく。

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理想が、現場を苦しめる瞬間がある。

「もっと丁寧に説明すべきだ」
「患者に寄り添うべきだ」

その通りだと思う。

だが、
一日の外来が詰まり、
手術が立て込み、
スタッフが忙しく働く中で、
理想だけを積み重ねれば、現場は確実に疲弊していく。

理想が間違っているのではない。
理想を引き受ける設計が、存在していないことが問題なのだ。

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経営という言葉は、医療の理想と対立するものとして語られがちだ。

数字を追う。
効率を考える。
コストを管理する。

それらは、
医療を冷たくするものだと受け取られやすい。

だが実際には、
経営を無視した医療の方が、理想を壊しやすい。

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しばしば、
経営は「価値判断を放棄すること」のように語られる。
理想を諦め、現実に迎合する行為だと。

だが、私が現場で感じている経営は、それとはまったく違う。

経営とは、価値を捨てる作業ではない。

どの価値を、
どの順番で、
どこまで守るのかを、
決め続ける作業だ。

すべての理想を同時に、最大限に満たすことはできない。

だからこそ、
何を優先し、
何を制限し、
何を仕組みとして支えるのか。

経営とは、その選択を引き受ける行為なのだと思っている。

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理想的な医療ほど、手間がかかる。

説明には時間がかかる。
調整が必要になる。
判断には迷いが生じる。

それを
善意や使命感だけに委ね続ければ、いずれ必ず限界が来る。

理想を続けるには、理想を支える判断が必要になる。

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開業してから、私は次第に、このことを実感するようになった。

良い医療をしたい。
患者にとって、意味のある医療を届けたい。

その思いがあるからこそ、
「続けられるか」を常に考えなければならない。

続かなければ、理想は、なかったことと同じになる。

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医療は、理想だけでは成立しない。

だが、
理想がなければ、医療ではなくなる。

重要なのは、
この二つを対立させないことだと思っている。

理想を下げるのではなく、
理想を、現実に耐えうる形に翻訳する。

それが、
経営者として医療に関わる意味なのだと今は感じている。

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日帰り手術も、小さな実装も、試行錯誤の積み重ねも、
すべては、理想を諦めるためではなく、
理想を現場に残すための試みだった。

医療は、理想だけでは成立しない。

だが、
理想を捨てた瞬間に、医療は別のものになってしまう。

この矛盾を、どう引き受け続けるのか。

それが、
外科医であり、経営者でもある立場に、
突きつけられた問いだ。

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このブログ「外科医と経営者としての判断」では、
外科医、そして経営者としての経験から感じたこと、迷ったこと、
現場で抱いてきた違和感を、
できるだけそのままの言葉で綴っていきます。

院長 松下公治

この記事は埼玉外科クリニック院長松下が執筆。腹腔鏡による鼠径ヘルニアの日帰り手術を専門に研究。外科専門医、消化器外科専門医・指導医、内視鏡外科技術認定医(ヘルニア)。

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