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外科医と経営者の視点

外科医の判断と経営の判断は、なぜすれ違うのか

外科医として働いてきた私は、これまで無数の判断をしてきた。

手術をするか、しないか。
どの術式を選ぶか。
今、動くべきか、待つべきか。

それらの判断は、常に「目の前の患者さん」を中心に行われる。
時間軸は短く、結果は比較的はっきりしている。

病状は良くなったか。
合併症が起きたか。
回復は順調か。

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一方で、
経営者として医療に関わるようになってから、
まったく異なる種類の判断に直面するようになった。

この体制を続けられるか。
人を増やすべきか。
今、資金を投じるべきか。
どこで無理が生じているか。

そこでは、
「正解」が見えるまでに時間がかかる。
ときには、
結果が出ないまま、判断だけが残ることもある。

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外科医の判断と、経営者の判断。

両者の違いを一言で言えば、
責任の向きと、時間の幅にあると思っている。

外科医の判断は、一点に向かって収束する。

今、この患者さんにとって何が最善か。
その問いに、全力で答える。

経営者の判断は、むしろ広く発散する。

この判断が、
半年後、一年後、数年後に、どんな影響を及ぼすのか。

資金を投じるべきか、今は待つべきか。
現場をさらに強くするか、維持するか。

その全体像を想像しながら決める。

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この二つの判断が噛み合わない理由は、
考えている対象だけでなく、
使っている「言語」が違うことにもある。

外科医の判断は、
成功率、合併症、根拠、標準治療といった、医学の言語で語られる。

一方、経営者の判断は、
持続性、再現性、余力、撤退ラインといった、構造の言語で語られる。

同じ「正しい」という言葉でも、
外科医が指しているのは、医学的妥当性であり、
経営者が見ているのは、その判断が全体を壊さずに続けられるかどうかだ。

言葉が違えば、議論はすれ違う。

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外科医の判断は、失敗が明確だ。

合併症が起きた。
結果が出なかった。
説明が不十分だった。

だからこそ、改善もしやすい。

一方で、
経営者の判断は、失敗が見えにくい。

人が静かに疲弊していく。
現場に余白がなくなる。
改善の余力が失われる。

それは、ある日、突然問題として現れる。

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外科医の判断は、専門性に支えられている。

経験。
知識。
修練。

自分が責任を持って判断できる範囲が、ある程度はっきりしている。

経営者の判断には、そのような安心感が少ない。

人の感情。
組織の空気。
制度の変化。

不確実な要素が多く、「正しいかどうか」を事前に確信することは難しい。

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ここで起きる衝突は、怠慢や無理解から生じることばかりではない。
むしろ多くの場合、善意と善意がズレた結果だ。

外科医は、目の前の患者さんを守ろうとしている。
経営者は、医療そのものを壊さずに守ろうとしている。

どちらも、自分なりに誠実だ。
だからこそ、そのズレは厄介になる。

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経営者の判断は、外科医の判断よりも孤独になりやすい。

相談はできても、最終的には自分で引き受けるしかない。

しかもその判断は、
誰か一人の成果や失敗として評価されにくい。

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開業してから、
私は何度もこの二つの判断の間で戸惑ってきた。

外科医としては正しい判断が、
経営者としては無理を生むことがある。

逆に、
経営的には合理的な判断が、
外科医としては割り切れないこともある。

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重要なのは、
どちらが正しいかを決めることではない。

二つの判断は、役割が違うという事実を
受け入れることだと思っている。

外科医の判断は、一点の最善を目指す。
経営者の判断は、全体の持続を守る。

そのどちらかを軽視すれば、医療は歪む。

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医療の現場では、
外科医の判断だけで物事が進んできた歴史がある。

だが、
医療を「続ける」ことを考えた瞬間、
経営者の判断は避けて通れなくなる。

それは、医療をビジネスにするという意味ではない。
医療を壊さずに存続させるための判断だ。

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外科医の判断と、経営者の判断。

その違いを理解しないまま、どちらか一方だけで医療を語れば、
話は必ず噛み合わなくなる。

現場は理想を語り、経営は現実を語る。

その対立を超えるには、
二つの判断を同時に引き受ける視点が必要になる。

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このブログ「外科医と経営者としての判断」では、
外科医、そして経営者としての経験から感じたこと、迷ったこと、
現場で抱いてきた違和感を、
できるだけそのままの言葉で綴っていきます。

院長 松下公治

この記事は埼玉外科クリニック院長松下が執筆。腹腔鏡による鼠径ヘルニアの日帰り手術を専門に研究。外科専門医、消化器外科専門医・指導医、内視鏡外科技術認定医(ヘルニア)。

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