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外科医と経営者としての判断

「安全のため」と言いながら、私が守っていたもの

「念のため、入院しておきましょう」

外科医として、私はこの言葉を何度口にしてきただろうか。

患者さんはうなずき、家族は安堵し、
その場の空気は、すっと落ち着く。

だが今になって思う。
あの言葉は、誰の安全を守るための言葉だったのか。

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医療の現場で「安全」という言葉は、
ほぼ毎日、当たり前のように使われる。

安全な手術。安全な管理。安全を最優先に。

誰も反対できない、正しい言葉だ。

だがその「安全」が、
誰の視点で語られているのかは、
意外なほど問われてこなかった。

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患者さんにとっての安全とは、何だろうか。

合併症が起きないこと。
痛みが少ないこと。
不安なとき、相談できること。
そして、生活が大きく乱されないこと。

一方で、医師にとっての安全はどうだろう。

責任の所在が明確であること。
想定外の事態に備えられていること。
万が一のとき、「やるべきことはやった」と言えること。

さらに、制度としての安全もある。

ガイドラインに沿っていること。
前例があること。
記録として残せること。

これらはすべて「安全」だ。
だが、それぞれが同じ方向を向いているとは限らない。

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「念のため入院させておいた方が安全だ」

この判断には、強い引力がある。

患者さんを安心させ、家族も納得し、
医師自身も「間違っていない選択をした」と感じられる。

だがその引力の正体は、何だろうか。

患者さんの安全への配慮か。
それとも、
「帰宅後に何か起きたとき、どう説明するのか」
という、医師自身の不安を和らげるための選択か。

多くの場合、その両方が混じり合っている。

それ自体は、責められることではない。

だが、その混在が自覚されないまま、
「安全のため」という言葉だけが独り歩きするとき、
見えにくい問題が生まれる。

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「念のための入院」が積み重なると、何が起きるか。

病棟は常に満床に近づく。
医師と看護師は余裕を失い、
本当に手厚いケアが必要な患者さんへのリソースが削られていく。

夜間の呼び出しが増え、
対応するスタッフの疲弊が蓄積される。

「念のため」の判断が、
現場のどこかに負担として積み重なっていく。

その負担を誰が引き受けているのかを、
立ち止まって考える機会は、
現場ではほとんどない。

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問題は、誰かが悪いという話ではない。

医師は患者さんを守ろうとしている。
看護師は現場を回そうとしている。
制度は医療全体を守ろうとしている。

それぞれが、それぞれの立場で、
「安全」を最優先に判断している。

ただ、その「安全」の定義が、
少しずつズレたまま重なっている。

そのズレが、じわじわと現場の負担として現れる。

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日帰り手術を始めてから、私はこのズレをより鮮明に意識するようになった。

「入院しない」という選択は、一見すると不安を呼ぶ。

だが実際には、
手術の安全性は、入院の有無だけで決まるものではない。

術前に何を想定しているか。
患者さんがどこまで理解しているか。
術後のフォロー体制がどう設計されているか。

これらが整っていれば、
日帰りでも問題なく経過する患者さんは少なくない。

逆に言えば、
入院という形を取っていても、
設計が不十分であれば安全とは言えない。

安全とは、場所ではなく、設計の問題だ。

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「安全のための入院」という言葉を、私は否定したいわけではない。

入院が必要な患者さんは確かにいる。
入院によって守られる安全も、確かにある。

ただ、
患者さんにとっての安全と、
医師にとっての安全と、
制度にとっての安全を、
分けて考える習慣が、
現場にはまだ十分に根付いていないと感じる。

「安全のため」という言葉が、
思考の終点になるのではなく、
思考の出発点になるとき、
医療は少しずつ変わっていけると思っている。

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手術を前にした患者さんが「安全」を求めるのは、当然だ。

だからこそ私は、
「安全とは何か」を自分の言葉で説明できる外科医でありたいと思っている。

「入院していれば安全です」ではなく、
「この設計で、この準備で、安全を確保しています」と。

その言葉を持てるかどうかが、
判断を引き受けるということの、
具体的な意味だと感じている。

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このブログ「外科医と経営者としての判断」では、
外科医、そして経営者としての経験から感じたこと、迷ったこと、
現場で抱いてきた違和感を、
できるだけそのままの言葉で綴ります。

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院長 松下公治

この記事は埼玉外科クリニック院長松下が執筆。腹腔鏡による鼠径ヘルニアの日帰り手術が専門。外科専門医、消化器外科専門医・指導医、内視鏡外科技術認定医(ヘルニア)。

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